代表ごあいさつ
この20年、これからの10年~
LOOB(ロオブ)は2001年からフィリピンで青少年活動とコミュニティ開発を行っている非営利組織(NGO)です。「一方的な支援でなく、現地の人と共に学び成長する」をモットーに、国際ワークキャンプやSDGsリーダー研修事業などを通じて日本とフィリピンのユース層の育成に力を入れています。
■1. 日比4人の若者の夢からスタート
私が大学時代に参加したYMCAの活動でフィリピンに降り立ったのは1995年。小学校の家庭科の教室に1か月間、フィリピン人キャンパーと日本人キャンパーが寝泊とまりし、学校の施設を整備しながら、さまざまな交流活動を行いました。異文化を受け入れられず涙したり、朝まで夢を語り合ったり。その時に過ごした1か月間の色や匂い、魂が震えるほどの感覚は、帰国してからも強烈に私の人生を動かしていくことになりました。
私は日本の大学を卒業後に、マニラにあるNNAフィリピンに就職して社会経験を積み、YMCAの仲間でもあったパートナーと結婚したことをきっかけにイロイロ市に移住。その後すぐにYMCAのキャンプスタッフと再会し、自分達の青少年育成NGOを立ち上げることになりました。私たちが目指したのは「フィリピンと日本の若者が共に汗を流し、学び合い、感動を共有できる空間を創出すること。そしてその青少年交流によってフィリピンの貧困コミュニティへのエンパワーメントを推進する団体になること」です。
2001年6月、フィリピン政府から非政府組織(NGO)の法人格を取得。第1回目のワークキャンプ参加者を募集し、日本人14名、フィリピンから5名のボランティアが集まりLOOBの活動が正式にスタートしました。フィリピン人スタッフが≪隣人を愛せよLove Our Own Brethren ≫というキリスト教の最も美しい教えを、団体の名前に載せてくれました。
■2. LOOBの目指すワークキャンプ
設立当初は年2回の開催でしたが、2019年現在でワークキャンプやスタディツアー(海外研修)などのボランティアプログラムは年10回を行うまでになり、この20年間で参加延べ人数は日本人2,000人、現地ユースメンバーが1,000人となりました。
LOOBのワークキャンプでは、日本人とフィリピンのボランティア20人前後が、貧困地域の共同体の中で、10日から2週間を一緒にすごします。昼は施設の建設や井戸堀りなどのワークをし、夜はホームステイで村人と交流を図ります。日本人は全国から一人で参加する方が多く、フィリピン人は毎回口コミで紹介されて参加する学生が多いです。異文化の中で、“はじめまして”ですぐに寝食を共にする過酷な(?)生活がスタートするのですが、この無茶ぶりがあるからこそ、恥ずかしいとか英語が苦手なんて考えている暇もなく、個々の潜在的な能力が一気に開花され、グループとしてダイナミックな地域貢献が実現するのだと思います。
特に、LOOBが目指してきたのは、日本からフィリピンへの一方的な協力ではなく、「両国の青少年育成を通した双方向の国際協力」です。若者達は、キャンプの中で様々なアクティビティを通じて、異文化のジレンマや己の無力感も体験しながら、仲間と過ごす時間の中で自分がなりえる最高の自分を見つけていきます。ひとりひとりの感動や成長が、個人だけではなく社会そのものを動かしていけることを体感できる瞬間があるものです。この20年のNGO活動の中で、私たちは人とコミュニティの発展は無限であり、他者との関わりによってどのようにも成長していけるということを実感しています。参加して下さる方にもそのような感動体験を提供したいといつも思っています。
■3. 日本人がフィリピンから学ぶ「豊かさ」
日本などの先進国の生活は、開発途上国の経済的搾取の上に成り立ってきた一面があります。しかし途上国というステレオタイプなイメージが先行し、現地の生活や人々の価値観というものは、なかなか見えてこないものです。LOOBが活動を始めたころは、フィリピンの典型的なイメージと言えば、まだまだ「バナナ、危険、汚い」といったものが先行してました。2020年はどうでしょうか?私は同じアジアの隣人として顔の見える交流がまだまだ未熟なように思います。
LOOBでは様々なプログラムにおいて、ホームステイや家庭訪問を大切にしています。社会の核である『家族』から地域社会の現状を見させて頂くことで、日本人はフィリピンの家族観やコミュニティの機能を理解していきます。人やコミュニティの発展に最も大切なこと、それは精神的な豊かさを重んじる価値観であることを私自身もフィリピンから実感を伴って学んできました。非常に悲しいことに、日本は物質的には豊かでもいじめや自殺といった心の問題が増えており、将来が不透明な閉塞感を感じる人が増えています。フィリピンの質素な生活を体験し、人々と交流・協力することで、物質至上主義によって忘れがちになっている精神的な豊かさについて考えていくことが、結果的にこれからの日本社会を支える新しい価値観を産み出すと信じています。
■4. フィリピンの若者が次世代を創る
海外に出稼ぎに行く人が国民の10%にも上る「出稼ぎ大国」フィリピン。私たち日本人がフィリピンで活動していても、国内の政治経済情勢に見切りをつけて多くの若者が海外に出て行ってしまいます。せっかく日本や海外から来たボランティアが奮闘しても、フィリピンの若者が次世代を担っていく意識がなければ、フィリピンという国はこれからもグローバル化という外国の資本や価値観の流入に翻弄されていくでしょう。
LOOBの草の根活動では、フィリピンの人々が自分の国を新しい視点から見ることができるようになる効果があります。例えば、ホームステイ先の母親が、「日本人がやって来ると聞いて、家が貧しいので最初は断ろうと思った。でも実際に受け入れてみて、彼らはフィリピン人と友達になるために来てくれたのだと分かった。豪華なご飯を出すことはできなかったが、どれもおいしいと言って食べてくれたことがとても嬉しかった」と泣いてくれたり。フィリピン人ボランティアが、「これまで自分の国は、政治が腐敗したダメ国家だと思っていたけど、日本人がフィリピンの質素な生活から感動している姿を見て、自分の国を客観的に見れるようになった。自分は外国に行きたかったが、もう少し自分に与えられた恵みを同胞とシェアしていきたい」と言ってくれたり。こういう言葉を聞くのは、活動をやっていて最も嬉しいことの一つでもあります。
フィリピン人は、先進国の若者と違って、気軽に海外に遊びに行けませんし、植民地化された歴史から、潜在的に外国の物事を良しとし、自国を卑下する傾向にあるのです。LOOBの活動を通して、少しずつ意識の変化を生み出していき、自分の国をもっと誇りに思う若者が増えればいいなと願っています。
■5. 20年目を迎えて
2021年でLOOBは20年周年を迎えます。この20年を振り返ると、多くの小規模NGOがそうであるように、創成期は「なんでもできることを最大限に」というスタンスで具体的な事業計画もなく、行きあたりばったりの活動でした。しかし、フィリピン人スタッフや村人とともに、そんな試行錯誤の時期があったからこそ、その経験から少しずつLOOB独自の協力論をあみ出し、現地の方々に受け入れられてきたと感じています。
2011年の東日本大震災は、私たちにとってもターニングポイントとなるもので、今後のLOOBの在り方を問い直す良い機会になりました。そして2020年に世界を襲った新型コロナウイルスの影響も甚大で、多くの方々が日々を丁寧に生きることや経済活動による環境負荷について考えるきっかけとなったのではないでしょうか。LOOBが第三者からよく評価して頂くのが、そのユースボランティアの質の純粋さです。彼らはLOOBの一番の大きな『財産』であり、社会の課題を解決していく上での重要な『力』です。持続可能な開発目標(SDGs)の達成まであと10年ですので、次世代のリーダー育成にこれからも注力していきたいと思っております。いつも惜しみない愛と努力をLOOBに向けてくれるメンバーの皆様、本当にありがとうございます。これからも応援よろしくお願いします!
2020年 小林幸恵