青少年育成とコミュニティ開発のフィリピンNGO LOOB

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Vol.1 2006年フィリピン・ギマラス島重油流出事故

ギマラス島は、パナイ島とネグロス島に挟まれた面積約6万ヘクタールの小さな島。14万1,500人の島民が暮らしています。南部には多くの魚類が生息するタクロン島(Taclong Island)保護区があり、豊かなマングローブ群生が漁業を支えてきました。

2006年8月11日午後4時頃、サンシャイン・マリタイム社が所有・運営する船舶(フィリピン籍、SolarI号、998トン)が、ルソン島南部バタアン州からミンダナオ島の南サンボアンガ州に向かう途中、ギマラス島南西19キロの地点で沈没しました。同船舶は、石油元売り最大手ペトロン社がチャーターしたもので、積載していた219万リットル(52万8,360ガロン)の工業用重油のうち、最初の数日で35万リットル以上が流出し、フィリピン史上最悪の海洋汚染事故となりました。

特に被害が大きかったのは、ギマラス島南部のヌエババレンシア町、シブナグ町、サンロレンゾ町で、この地域だけで漁業が禁止された被害世帯数は3,357世帯に上り、40あるバランガイのうち27のバランガイで影響が出ました。 中でもLOOBの活動地があるヌエババレンシア町のサンロケ、ラパス、ルクマヤンの3つバランガイで最悪の被害となりました。

船舶は、650メートルの海底に沈んだまま(2007年3月10日現在)です。

被災データ

日本の新生丸が撮影した沈没船
  • 184キロメートル以上の海岸線
  • 88ヘクタールの海草養殖
  • 漁業の被害総額は年間3,000万ペソ
  • マングローブの普及費用1,500万ペソ
  • 15平方キロメートルのサンゴ礁
  • 漁民1万人に影響
  • 1,141ヘクタールのマングローブ群生 (タクロン島周辺の海洋保護地区26ヘクタールを含む)

LOOBの支援活動

子ども達と遊んだ青い海、人々の食卓を支えていた美しい海を取り戻すため、同島で唯一の日系NGOであるLOOBが緊急支援を行いました。 日本で義援金(合計130万円)を集め、漁業が禁止され生計手段を失ったヌエババレンシア町サンロケ・タラバハン村の漁民に対し、食糧支援と海岸の重油除去作業を実施しました。

A. 食糧支援&保健衛生1世帯に配られる食料(1週間分) 9月1日から12月末まで。
新たな生計手段で現金収入を得るまでの食料支援。
缶詰や乾めんといった保存食ではなく、コメや大豆、生鮮肉、野菜、調味料、日用品を配給。
日比のボランティアさんが作業を手伝ってくれた。
長期的な食生活を応援するため、野菜栽培も指導した。
A. 食糧支援&保健衛生
無料健康診断
プロテスタント・グループJECの協力で、住民の無料健康相談を実施。
クリーンアップ活動に伴う重油の取り扱い方法などの情報を提供し、ボランティアの健康管理も実施した。

また食糧の提供だけでなく、歌やゲームを通じて住民と交流するプログラムも実施。
B. 現金収入プロジェクト
漁業ができなくなった村人を雇用し、バンブーハウスを建設した。
このプロジェクトは9月24日~10月23日までに完了。
イロイロ市内から来るLOOBボランティアの滞在用ハウスとして活用されている。
C. 新たな生計手段 漁業が解禁となったため、当初予定した家畜を取りやめ、漁業の効率改善を目指す生計支援プログラムを実施。
中型ボートや漁網を提供し、沿岸漁業だけでなく沖合漁業を応援した。
D. 視察クリーンアップ
砂浜から重油を取り除く日比ボランティア
9月16日、9月23日、10月7日にLOOBの日本人ボランティア15人、フィリピン人ボランティア14人、プロテスタント・グループJECの12人などを含む総勢55名が被災者を訪問。

1日でも早く子供たちが安心して泳げる海を!と砂浜やマングローブの重油クリーンアップを行いました。

≫視察クリーンアップの写真
E. 被災地自治体へのコメ寄贈
フィリピン人の主食であるコメ
LOOBの支援先だけでなく、周辺地域の住民にも支援が回るようコメを寄贈した。

協賛頂いた個人151名(お名前の掲載は省略させて頂きます)

行政・企業による取り組み 

以下、日本ではほとんど報道されなかった現地行政と事故責任のある石油会社ペトロンの取り組みをまとめました。ギマラス島住民からの情報も絡めてご紹介します。

クリーンアップの日給300ペソ

ペトロンは8月中旬から、被災地の住民を雇用し、海岸に打ち上げられた重油を除去するクリーンアップ活動を実施した。住民に支払われた報酬は1日(9時~15時)300ペソ。地方の日給としてはなかなかの好条件とあって、男性ばかりか女性も我こそはと積極的に参加した。

行政やペトロンから補償の提示がなかったため、住民はクリーンアップ活動を「国とペトロンからの補償金」と認識していた。しかし、一つのバランガイ(行政最小単位)から参加できるのは1日50~70人と制限があり、一人が働ける回数は1週間に1~2回ときまっていた。

実際の活動は、吸い取り紙でサンゴ岩場にたまった油を吸収したり、砂浜の表面に打ち上げられた重油をスコップですくい、コメ袋に入れてバケツリレー式に一箇所にまとめるというかなりの力作業。 9月7日には保健省が、ガスマスク・グローブ・長靴・長袖・長ズボンを身に着けないとクリーンアップには参加させないという通告を出すなど、行政の管理の下でクリーンアップは続いた。

一方では重油垂れ流し
上空から見た被害

クリーンアップが行われる一方、重油タンカーは今だに海底に沈んだまま。上空には毎日のように観測機が飛び、重油漏れが確認されるたびに沿岸警備隊とペトロンが化学分散剤を散布して、重油を拡散・沈殿させた。

この化学分散剤について、専門家からは早くから「生分解されず重油より環境へのダメージが大きい」と疑問の声をあげていた。タンカーという「元凶」が引き揚げられない上に、化学分散剤による二重の環境被害が指摘された。

そんな中、9月26日、フィリピン政府の科学技術省がシリマン大学の研究を基に「化学分散剤の使用は有害である」ことを認めた。国際協力機構(JICA)が8月21日に4人の専門家を日本から派遣した際、「海上浮遊油に対して現在使用している油処理剤は効果的であることを確認した。」と報告していたはずだったが? JICAの報告はこちら

海岸クリーンアップ、2ヶ月で終了

ペトロンのクリーンアップ活動は、行政(Nueva Valencia町)、保健省(Department of Health)、沿岸警備隊(Coast Guard)の管轄の下で行われた。10月7日までにペトロンが拠出したクリーンアップ費用は4,300万ペソ。うち半分以上は(9月末に環境汚染と指摘された)化学分散剤に、また1,480万ペソが住民の雇用に充てられた。

LOOBでも10月7日にギマラス島周辺の海岸を視察したが、事故直後と比べるとクリーンアップ作業のおかげで砂浜の表面はかなりきれいになっていた。しかし砂浜を10cmも掘ると重油が確認できた。外見の美化はなんとかなるが、後は自然の浄化作用に頼るしかないのだ。

また、10月の時点では、砂浜自体はきれいになったが、ビーチの木陰には油と砂が詰まった大量のコメ袋が4、5メートル四方に積まれており、行き先のない廃棄物が景観を損ねていた。

国防省は10月13日、第1弾の砂浜の油除去を終了したと発表した。第2弾はマングローブやサンゴ礁などの海洋資源復旧する作業で、環境天然資源省(Department of Environment and Natural Resources)が中心になり11月から開始されると発表した。(が、結局マングローブの清掃は最後まで実施されなかった)

国際油濁補償基金(IOPC)の全面補償決定

英ロンドンに本拠を置く国際油濁汚染補償基金(IOPC)は、10月26日、ギマラス島の重油被害を全面的に補償することを決定した。

補償内容は、「沈没タンカーからの重油抜き取り作業の費用負担」と「漁民への慰謝料」となる。漁民への慰謝料は、「漁業に出れなかった日数×平均日給」が補償額となり、タラバハン村でも補償額の自己申請が進められ、村人は2月頃までに平均12,000ペソの補償金を手にした。日給が200ペソとして3ヶ月漁業できなかったので、12,000ペソという計算だ。

ただ、重油抜き取り作業は2007年3月現時点、まだ実施されていない。

アーカイブ

★8月12日- Solar 1の沈没事故がペトロンに報告される
★8月13日-被害状況を査定するための航空機による調査が実施される
★8月14日-ペトロンがフィリピン沿岸警備隊(PCG)と共に第1段階のクリーンアップを開始。海水の表面に浮遊する油が海岸に漂着しないよう、PCGの事前承認を受けた油処理剤(分散剤)が利用された。
★8月25日-マカパガル大統領が、ギマラス島重油被害を“国難”として認知した。
★8月30日-海底に沈没しているSolar 1の海中位置を確認し、船舶の状態を把握するため、日本の救助船「新生丸」が到着。含油スラッジが漂着した地域で行われた大気調査で高度の毒性が確認されたことから、地域住民の避難が開始された。
★9月6日-船主責任相互保険組合、国際油濁補償基金、およびSolar Iの保険会社とペトロンはそれぞれ、ギマラス島で補償手続きを開始。
★10月13日-政府は第1段階のクリーンアップが終了したと公表。クリーンアップにより1.3キロメートルの海岸から重油が取り除かれた。環境天然資源省および科学技術省が、第2段階のクリーンアップに向け、環境再生計画の立案を開始。
★10月26日-国際油濁補償基金の実行委員会が、Solar Iの船舶内に残る重油の抜き取りに関する費用拠出を基本承認。
★10月31日-毒性ガスの危険性が解除されたため、環境天然資源省の勧告で非難住民が帰宅。
★11月8日-ギマラス油濁事故タスクフォースが、マングローブのクリーンアップ(第2段階)についての事前調査の結果を発表:
1.マングローブのクリーンアップを管轄する林業関係者チームを設立し、作業のガイドラインを作成する。
2.クリーンアップが実施される地域では、住民も活動に参加する。
住民は事前説明会に出席し、マングローブの正しい扱い方と重油除去方法などについて学ぶ。
3.監督者向けのオリエンテーションは2007年3月8日に実施され、その後監督者が住民へのクリーンアップセミナーを実施する。
11月20日-ギマラス島で回収された重油(砂・石を含む)59,000袋(630トン)を積んだ荷船がミンダナオ島ミサミスオキシデンタル州に向かう途中で沈没。深刻な被害はないと政府見解。
★11月22日-Solar Iの保険会社および国際油濁補償基金が、水中工事会社に沈没船の残余重油抜き取り作業を発注。作業は来年2月から20日前後で完了する予定。